とある内科医の病棟マニュアル

とある内科医の病棟マニュアル

呼吸器内科医が日常診療の考え方を綴る備忘録

胸水の対応とドレーンの管理

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主な鑑別疾患

★片側性胸水の場合は滲出性胸水の可能性高いため、胸水穿刺を積極的に考慮する

 

胸水検査のフローチャート

 

胸水の検査

排液は1日1000mlまで(抜きすぎると再膨張性肺水腫になる)

細胞数、細胞分画、糖、アミラーゼ、LDH、pH、細胞診(悪性胸水の場合は3回提出することで感度上昇)、悪性所見がある場合はセルブロック作成(免染で原発巣や病理像の推定、必要に応じて遺伝子検索もできる)、胸水一般・抗酸菌塗抹、一般培養(嫌気培養も提出。血液培養ボトルで培養すると感度上昇)、抗酸菌培養、Tb-PCR、ADA、コレステロール、総蛋白(TG)、ヒアルロン酸CEA、CYFRA(胸水中のシフラ上昇+細胞診で腺癌の場合は胸膜中皮腫を疑う)、ヘマトクリット、RF、膠原病を積極的に疑う場合は胸水中の抗核抗体や補体。乳び胸水の場合はズダンⅢ染色悪性リンパ腫を疑う場合は胸水のフローサイトメトリー

✅心エコー(滲出性でも漏出性でも評価したほうが無難)

✅胸部エコー(穿刺部位と被包化の評価)

✅胸部・腹部CT(膿胸、肺塞栓、胸膜病変の評価には造影CT特に胸膜病変は造影じゃないと分かりにくい時がある!腹部はMeigs腫瘍や肝胆道系の鑑別)

 

その他の必要な検査

★滲出性・漏出性の鑑別はこちらを参照

漏出性胸水の場合

✅血液検査:一般採血に加えて、肝腎機能、Alb、TP、BNP、PT、ChE、TSH、FT4

✅尿定性・沈査(ネフローゼなどの評価)

✅腹部エコー(肝硬変などの評価)

✅心エコー(心不全・肺高血圧の評価)

⇒原因に応じて追加検査・治療。

 

滲出性胸水の場合

✅血液検査:一般採血に加えて、凝固、蛋白分画、QFT、抗MAC抗体、β-Dグルカン、アスペルギルス抗原、クリプトコッカス抗原、IgG、IgA、IgM、IgG4、抗核抗体、RF、抗CCP抗体、SS-A、SS-B、MPO-ANCA、PR3-ANCA、フェリチン、ACE、CEA、CYFRA、可溶性IL-2Rなど。悪性胸膜中皮腫を疑うなら可溶性メソテリン

✅喀痰培養、血液培養

✅全身CT(膿胸・血胸・肺塞栓を疑うなら造影CT)

✅原因が分からない場合は胸膜生検

✅特殊な検査として胸水のネオプテリン(尿毒症性胸膜炎の検査)、胸水中グルココール(胆汁性の胸膜炎の精査)、胸水のフローサイトメトリー(悪性リンパ腫疑い)。

✅アミロイドーシスを疑う場合 

  • AL型(限局性が多い)の評価は、血清M蛋白の評価、血清遊離軽鎖、尿中BJ蛋白、骨髄穿刺の評価を行う。
  • AA型(全身性が多い)の評価は、血清アミロイドA、尿検査、抗核抗体、RF、抗CCP抗体、SS-A、SS-B、QFT、消化管内視鏡(生検、炎症性腸疾患の評価)、腸管・肝臓・骨髄・皮膚・腹壁脂肪からの生検、腎障害があれば腎生検、心アミロイドーシスの評価(心電図、心エコー、必要に応じて心生検、シンチ)、神経症状がある場合は神経生検、神経伝導速度検査。

 

胸水検査の解釈

Lightの基準

以下のうち1つでも満たせば滲出性と判断する

  • 胸水蛋白/血清蛋白>0.5
  • 胸水LDH/血清LDH>0.6
  • 胸水LDH>血清LDH正常上限値の2/3

 

Heffnerの基準

以下のうち1つでも満たせば滲出性と判断する。

 

✅利尿剤が投与されている場合は胸水TPが上昇し滲出性に見える場合があるため注意。

✅胸水中のBNP>1500もしくは血清蛋白-胸水総蛋白>3.1gの場合は漏出性を考える。

✅低Alb血症の時は、胸水と血清のAlbの差が1.2以上で漏出性

 

各項目の評価



胸腔ドレーン留置の判断基準

✅原因不明の胸水には安易にドレーンは入れない!

✅ドレーンを留置する大まかな基準は以下の通り(詳しくは後述参照)

  • 感染性胸水
  • 悪性胸水に対し癒着術を行う場合
  • 大量胸水の精査を行うため(胸水を排液して肺野の確認/呼吸状態を改善させて気管支鏡や胸膜生検)

 

感染性胸水

肺炎随伴性胸水や膿胸が疑われた場合は必ず呼吸器外科に相談する

✅下記のクラス分類に従ってドレナージの適応を決める

✅「明らかな膿胸」、「被包化した感染性の胸水」、「滲出性・好中球優位で半分くらい水が溜まっている胸水」、「塗抹や培養が陽性」、「PHや血糖が低い胸水」の場合は胸腔ドレーンを留置する。

それ以外の場合は抗菌薬で押してみる。

抗菌薬治療を行っているにも関わらず胸水が増加してくるような場合は胸腔ドレーンを留置する!

 

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悪性胸水

以下の時に胸腔ドレーンを留置する

✅呼吸器症状が出現している+化学療法で胸水の減少が期待できない場合(胸膜癒着術を検討

✅繰り返し貯留する胸水に対し、頻回の胸水穿刺が必要な場合(胸腔穿刺を繰り返すと被包化の原因になる)

✅胸水貯留により呼吸不全が出現し、気管支鏡や胸腔鏡などの検査の妨げになる場合

✅大量胸水により圧排された肺野を確認したい場合

 

ドレーンの管理

ドレーンの呼吸性変動がなくなったら(胸水の場合)

①ドレーンの壁当たり(位置の問題や多房化の影響)又はドレーンの閉塞の可能性を考える

②排液を確認する(排液が少ないなら側管から通水)→排液があれば閉塞はない。排液がない場合は③へ

体位変換を指示→呼吸性変動なしなら④へ

④ドレーンのミルキングを行う→呼吸性変動なしなら⑤へ

⑤胸部CTを施行し先当たりしてそうな場合は少し位置を変更する→違う場合は⑥へ

⑥ドレーンが閉塞している or 多房化の影響の可能性が高い

→閉塞が解除できなければ新しいドレーンを追加挿入。その後に古いドレーンは抜去する

 

ドレーンの呼吸性変動がなくなったら(気胸の場合)

①ドレーンの壁当たり(位置の問題)又はドレーンの閉塞の可能性を考える

②まずは体位変換を指示→呼吸性変動やリークなしなら③へ

③ドレーンのミルキングを行う→呼吸性変動やリークなしなら④へ

④時間をおいて胸部X線写真を撮像する。虚脱が進んでいれば、追加のドレーンを挿入する。虚脱しなければクランプテストをしているのと同じ状態なので抜去する。

 

ドレナージが不良な場合

①まずは呼吸性変動の有無を確認する(上記参照)

②ドレーンの先当たりや胸腔内の多房化の可能性を考慮し胸部CTを撮像する

③位置の変更 or ドレーンの追加挿入を行う

 

皮下気腫が増悪する場合

①ドレーンの挿入部を確認する→傷口の結び目がゆるい場合は縫合しなおす。

②皮下気腫部位に砂嚢を置く、バストバンドを巻く

③メラサキュームの陰圧を上げる

④皮下気腫がひどい場合は呼吸器外科コンサルト

 

 

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