とある内科医の病棟マニュアル

とある内科医の病棟マニュアル

呼吸器内科医が日常診療の考え方を綴る備忘録

体液コントロールの考え方

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1日の水分量

維持輸液量の計算方法は様々なものがあるが、実臨床で使いやすいのは

55歳未満・・・体重×35ml/日程度

55歳~65歳・・・体重×30ml/日程度

65歳以上・・・体重×25ml/日程度

 

In/Outバランス

1日のIn量=1日の尿量(1日のOut量)+不感蒸泄(15ml/kg/日+200×体温-36.8度)-代謝水(13ml/100kcal/日)

計算が面倒なので・・・

不感蒸泄≒15ml/kg/日、代謝水≒5ml/kg/日と考えると・・・

1日のIn量=1日の尿量(1日のOut量)+10ml/kg/日

 

★食事内の水分は1000kcalあたり400ml程度と考える。

★不感蒸泄は皮膚や粘膜から2/3、肺から1/3。

★人工呼吸器管理中は肺からの不感蒸泄を0として計算するので、2/3で計算する必要がある。

 

目標体重

★バランスを計算する上で体重は非常に大切。

目標体重は、入院前の健常時体重-入院による体重減少(大体-1.0㎏~-1.5㎏程度(元気な人は除く))を考えて目標値を設定する。

 

検査

✅体液評価の基本セット

★体液評価4点セット

尿測・体重測定・飲水量測定・心エコー!

→尿測、飲水量測定、体重週3回測定、心エコー(IVC)。必要であれば飲水制限。

 

✅身体所見

  • 下腿浮腫、起座呼吸、頸静脈怒張、湿性ラ音など

 

血液検査・尿検査

  • 血液濃縮の程度評価(Hb、Hct、アルブミン、総蛋白、尿酸値)
  • 胸部X線写真の心拡大やCPアングル
  • BUN/Cre比:脱水でBUN/Cre比の乖離
  • BNP、NT-proBNP:体液過剰で上昇
  • 尿検査・尿比重:脱水の場合は尿比重の増加。うっ血の場合は尿比重低下、尿中Na<20meq/Lが多い。尿Cl<20mEq/Lは低Cl性代謝性アルカローシス(脱水)。
  • 血ガス:代謝性アルカローシスは脱水を示唆

 

検査所見の解釈

※筆者の臨床経験をもとに、信頼性の高いものから順番に記載しております。エビデンスに基づいたものではありませんので注意してください。

溢水の評価
  1. 体重増加:3rdスペースへの移行が酷い場合を除き、通常は血管内の水分過剰
  2. BNP、NT-proBNPが上昇:30~40%以上上昇していれば溢水の可能性が高そう
  3. IVCの拡大、呼吸性変動なし
  4. 胸部Xpで心拡大
  5. うっ血の場合は尿比重低下、尿中Na<20meq/Lが多い
血管内脱水の評価
  1. BNP、NT-proBNPが上昇しているのであれば、少なくとも血管内は脱水にはなっていないはず
  2. 体重増加:3rdスペースへの移行が酷い場合を除き、通常は血管内の水分過剰
  3. Alb、TP、Hctの上昇があれば、血液は濃縮してそう 
  4. BUN/Cre比の乖離
  5. 尿浸透圧≧500mOsm/L、尿比重>1.020、尿量低下
  6. FENa<0.1%、FEUN<35%、尿Cl<20mEq/Lの代謝性アルカローシスは脱水を示唆
血管内脱水+細胞内脱水
  1. 血漿浸透圧上昇
  2. 高Na血症
  3. 口渇、皮膚のツルゴール低下

 

体液異常で介入するのはどんな時?

✅体液過剰

肺水腫や浮腫などの症状がある、1週間で体重1.5㎏増加した、In/Outが2日以上にわたり+1000を超える、IVC拡張など

✅尿量減少

尿量の3割以上の低下が2日以上続いた場合、尿量が400ml/日以下、尿量<0.5ml/kgの場合など

✅尿量増加(あんまりないけど…)

-500のマイナスバランスが2日以上持続する場合、体重がどんどん減少する場合

 

鑑別

・溢水病態

心不全、腎不全、低Alb血症(血管内脱水)、炎症が強い(敗血症や術後などサードスペースに漏れる)、過剰輸液など

・脱水病態

補液不足、食事が足りない、不感蒸泄が多い、ドライ気味で管理したい病態、利尿剤の使い過ぎ、出血など

・尿量低下が低下する病態

腎後性腎不全、腎性腎不全、脱水病態の場合、低Alb血症、炎症が強い場合、血圧が低い(心機能低下)

・尿量が増加する病態

飲水量が多い、補液が多い、高血糖による浸透圧利尿、点滴過剰による塩類利尿、その他の特殊な疾患(尿崩症、MRHEなど)

 

病態別体液コントロールの方法

★「入れるか(wet)」「Inを絞る・利尿剤を使うのか(dry)」を明確にすること!

(輸液しながら利尿剤とかは原則しない!)

 

溢水病態の対応

①補液を1日500~1000ml程度までに抑え、飲水制限+利尿剤投与を行う!!

目標はバランス-1000ml/日が目標。

②低Albによる肺水腫がある場合はアルブミンも補充を!

 

  • 腎不全(腎性)

腎性の溢水は基本どうしようもない。

①まずはInを絞る。(心不全を合併している場合は利尿剤も併用する)

②浮腫が続く場合やIn overが持続する場合は、腎臓を悪化させない程度に利尿剤を使用する。

③最終的に透析

 

  • 低Alb血症(血管内脱水)

★Albを増やすことを考える⇒原病の治療と栄養管理の徹底

①利尿剤を使用すると血管内脱水が進行するので、まずはInを減らし気味にして、極力利尿剤は使わない方針。(心不全を合併している場合は最初から利尿剤も併用する。)

②どうしても浮腫が強い場合やIn overになる場合は利尿剤を投与する。

③必要に応じてAlb+ラシックスを投与する!

☆目標は1日-500mlのアウトバランス!(引きすぎると血管内脱水がひどくなる)

 

  • 炎症がつよい(敗血症など)

炎症が治まるまで待つのが基本(炎症が落ち着いたら利尿期が1~2日くらいで来る。)

①尿量>0.5ml/kg/hrを保つように補液を継続する

心不全合併の場合は過剰輸液に注意。必要なら利尿剤使用も検討)

②補液しても尿が出ない場合は尿比重を評価。

尿比重>1.020で補液。

尿比重<1.020でラシックス±アルブミンを検討。

※基本的には利尿期が来るまではAlbは使用しないのが原則です!!

 

→炎症が落ち着いたら低Albの対応へ移行する!

 

脱水病態の対応

・補液を行う。 

・利尿剤の使い過ぎ→利尿剤を減らす。

・ドライで管理したい病態の場合は尿量>0.5ml/kg/hrで血圧が問題ないのであれば許容する。

 

尿量低下時の対応

★腹部エコーで腎後性腎不全の評価を忘れずに!!

  • 腎不全

腎性腎不全の尿量低下は基本どうしようもない。

浮腫が続く場合やIn overが持続する場合、尿量が400ml/日以下、尿量<0.5ml/kg、などの場合には腎機能を悪化させない程度に利尿剤を使用する。最終的には透析。

 

  • 低Alb血症(血管内脱水)

★Albを増やすことを考える⇒原病の治療と栄養管理の徹底

①まずは過剰輸液を控え、利尿剤も控える。尿量は>0.5ml/kg/hrあれば許容する。(高Naや血圧低下、尿量<400ml/日にならないように最低限の補液をする)

心不全の場合は利尿剤を使用。

②それでも溢水傾向が強い場合にはラシックス。必要に応じてAlb投与を検討。

(除水(アウトバランス)は1日-500mlまで!)

 

  • 炎症が強い場合(敗血症など)

サードスペースに漏れているため、炎症が改善されるまで(利尿期に入るまで)尿量>0.5ml/kgになるように補液を行う。

心不全を合併している場合は輸液を必要最小限に。血圧が大丈夫であれば利尿剤も併用していく)

補液しても尿が出ない場合は尿比重を評価。

尿比重>1.020で補液。

尿比重<1.020で利尿剤(±アルブミン投与)

(利尿剤は血圧がある程度安定しているのを確認して使用)

※基本的には利尿期が来るまではAlbは使用しないのが原則です!!

 

→炎症が落ち着いたら低Albの対応へ移行する!

 

  • 脱水病態・Dry管理にしている場合

外液1本を2時間程度で負荷する。

ドライに管理したい場合は尿量>0.5ml/kg/hrあれば十分で、尿量減少には目をつぶる。

 

  • 血圧低下時

ショックの場合はとにかく補液!

心原性のものならカテコラミンを使用。

鎮静薬による血圧低下の場合は鎮静薬を下げて, 必要に応じて昇圧剤。

⇒それでも尿が出ないなら、血圧を見ながら利尿剤を開始する

 

尿量増加時の対応

・尿量が増加する原因のほとんどは利尿剤使用時飲水・補液が多いか。

飲水量チェックを忘れずに!

・特殊な病態として

浸透圧利尿…高血糖による浸透圧利尿、補液による塩類利尿

尿崩症、MRHE、CSWS、高Ca血症、甲状腺機能亢進症、副甲状腺機能亢進症、慢性腎不全の利尿期など。

【検査】

多尿の鑑別の項を参照

ただの頻尿の可能性…前立腺肥大、過活動膀胱、水頭症、慢性硬膜下血腫

 

ラシックスの使い方

✅通常はラシックス1A~2A/日(20㎎~40㎎)で十分。

✅腎機能障害がある人はCr×20㎎程度の量に増量が必要。

✅血圧が低い場合は中止・減量、もしくは持注に変更し投与量を調節する。

✅反応が乏しい場合は2倍量静注または2倍量を生食と合わせて50mlとし、時間2mlで持続静注する。

✅内服の場合は静注の量の1~2倍量が必要。

✅Crが2以上の人はサイアザイドが効かないのでループ利尿剤にする。

 

その他の利尿剤の使いどころ

ラシックス持注:血圧が低い時、出渋っている時

✅アルダクトン:ラシックスで低Kが進んだら併用する

✅フルイトラン:高ナトリウムの患者で使用(他の利尿剤と併用で使用)

ダイアモックスラシックスの使用で代謝性アルカローシスが進行した場合使用する(呼吸抑制を抑える目的)

✅サムスカ:ループ利尿薬で利尿がつかない場合(特に低Na合併の時)に併用(必ず併用で使用する

 

Albの使い方

  • Alb投与の良い適応は肺水腫(心不全)と血圧低下例。
  • 難治性浮腫はネフローゼや肝硬変には適応。
  • その他の低Alb血症については、利尿剤を使用してそれでもダメな場合に使用を検討。

※投与開始の目安はAlb≦2.5g/dl

※栄養目的のAlb補充は絶対にしてはいけない

<使い方>

 

利尿薬の使用方法と効果判定

 

利尿薬の減量・中止基準、副作用の対応

下記の場合は利尿剤の減量を考慮する。

✅AKIの基準を満たす場合:Creが48時間以内に0.3mg/dl以上の増加、または基礎値からCreが1.5倍以上上昇。
※明らかな溢水がある場合は多少の薬剤性腎障害(Cre 0.5mg/dl程度の上昇)は許容する。

 

✅うっ血が解除された場合

うっ血解除の目安
  • 身体所見の改善:下腿浮腫、起座呼吸、頸静脈怒張、湿性ラ音など
  • 血液濃縮の程度:Hb、Hct、アルブミン、総蛋白のうち3項目以上の上昇
  • BNP・NT-proBNP:それぞれ最大値よりも30~40%以上低下

 

合計-3000ml以上のアウトバランスがある場合

  • 通常このくらいの量の水が引ければ、うっ血は改善していることが多い。

 

血圧低下、頻脈傾向

  • SBP≦90mmHgの時は、利尿薬の中止・減量もしくは利尿薬を持注に変更して量を調節する。

 

✅IVC虚脱

✅脱水による利尿薬の効果減弱が見られる場合

電解質異常については補正しながら利尿薬の使用を継続する
⇒ 補正困難な高度の電解質異常、代謝性アルカローシスについては減量・中止。

 

 

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